戸田みどり/Midori TODA – 『見捨てられた牛』

東日本大震災で罹災したのは人間だけではない。広大な牧場で飼育されていた牛たちも放射能の被害で、多くの命を失った。震災後、原子力発電所の事故により被爆した被災地の牛たちには、国から牧場主に対して牛の殺傷命令が下された。しかし、福島県の「希望の牧場」の牧場主・吉沢正巳はそれを拒み、被爆した牛の余命を温かく見守りながら、今も飼育を続けている。

「見捨てられた牛」 162×194cm 岩絵具 銀箔 墨 雲肌麻紙 2016年

 その実情を知った、日本画家の戸田みどりは、放射能汚染のあるその牧場を訪ね、牛たちの姿を作品として残すために精力的な制作に取りかかった。

 それまでは、生命を育む美しい清流をテーマにシリーズ作品「生ける水」(Living Waters)を描いてきた画家は、その「生ける水」が汚染される世界を見過ごすことはできず、被爆も覚悟して福島の「希望の牧場」に何度も取材に出かけ、「見捨てられた牛」をテーマに多くの作品を発表してきた。

 昨年(2019)11月には、戸田みどり画集『見捨てられた牛―フクシマより』が出版された。それを記念して、「原爆の図 丸木美術館」で出版記念展が行われた。多くの大作をはじめ、さまざまな牛の光景が描かれた作品が展示された。そのオープニングの会場には「希望の牧場」の牧場主も出席し、現在も続く、牛の惨状などについても語られた。そして「YOU TUBE 美術の駅」には、画家・戸田みどりと牧場主・吉沢正巳が作品の前で思い出を語る場面が撮られている。しかし、これは過去の出来事ではなく、現在も、放射能汚染の問題は続き、その解決にはマスコミで報道されているより、もっと深刻な問題を孕んでいるという。画家・戸田みどりは、まだ、このテーマの作品を描き続けていくのだろう。

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